基本構想

(1)研究開発の目標・ねらい

今日、人を対象とした医学研究は数多く実施されています。本研究開発は、左記の医学研究について、①研究倫理審査委員会の委員(一般委員・人文社会科学系委員)、②研究倫理審査委員会の事務局担当者/コンサルタント、③倫理審査を申請する研究者、それぞれに対する教育・研修のためのモデル教材・プログラムを開発することを目的としています。また、①については、モデル教材・プログラムの中で、法律家委員に特化したモジュールを提供することを目的としています。

併せて、医学研究に対する社会の理解を得るための広報資料を開発することを目的としています。

研究倫理審査の概要と研究開発する研修教材等の対象

(2) 研究開発の背景

背景1

研究倫理審査を適正・迅速に行うためには、①研究倫理審査委員会の委員、②研究倫理審査委員会の事務局担当者/コンサルタント、③倫理審査を申請する研究者、それぞれに対する質の高い教育・研修が不可欠です。それには、以下のような事情があります。

①倫理審査委員会の委員

医学研究になじみのない一般の立場の委員や人文社会系の委員が、医学研究の特性や倫理審査の意義・要点を十分に理解することは容易ではありません。こうした点についての理解が不十分なまま倫理審査に参画した委員から、審査の際に、患者たる対象者の利益が小さいことを問題視する意見が出されたり、安全性を評価項目とする第Ⅰ相試験で有効性に焦点をあてた意見が出されたりして、結果的に審査に多くの時間が費やされてしまうことがあります。

②研究倫理審査委員会の事務局担当者/コンサルタント

近年、事務局担当者やコンサルタントが倫理申請・審査を支援することが多くなっています。しかし、多様な背景を持つ事務局担当者・コンサルタントの専門性と、多様な倫理審査の現場の要請がうまく適合できていないことなどから、有効な支援が行われていないことも少なくありません。

③倫理審査を申請する研究者

倫理審査を申請する研究者が審査の要点を十分に理解していないことが少なくありません。このため、審査に必要な情報が計画書に欠けていたりして、審査に多くの時間が費やされたりすることがあります。

背景2

本研究開発では、医学研究に対する社会の理解を得るための広報資料を開発することも目的としています。

残余検体、手術摘出組織等の試料や、診療データを利用した研究については、包括同意や拒否機会保障による研究実施が中心にならざるを得ません。それが社会の支持を得るためには、研究に対する理解が前提となります。

(3) 研究開発の将来展望

1)実効性のある教材等の作成

研究開発者らはいずれも、政府の研究関連倫理指針の策定・見直しへの関与や研究倫理審査委員会委員としての豊富な経験を有します。さらに、所属機関等における研究倫理教育や実務者向けの医療倫理教育にも携わってきました。これらの経験を通じて得た研究倫理教育上の課題に対する深い理解に基づき、実効性のあるモデル教材・プログラムの開発ができると考えています。

2)倫理指針の実効性の確保

作成された教材・プログラムを用いた教育・研修の実践を通じて、①研究倫理審査委員会の委員(一般委員・人文社会科学系委員)の医学研究および倫理指針についての理解の向上、②事務局/コンサルタントによる課題への対応の標準化、③研究者によって作成される研究計画書の質の向上が期待できます。これにより、倫理審査の質と効率を高め、倫理指針の実効性の確保に寄与することができると考えています。

3)間接的に期待される成果及び社会的成果

本プロジェクトによって開発されるモデル教材・プログラムによって、倫理審査の質と効率が高まり、医学研究が、従来以上に、適正・迅速に実施されることになると期待されます。また、社会への広報のための資料によって、医学研究に対する社会の理解が深まり、研究が従来以上に円滑に実施されることになると期待されます。本プロジェクトによるこれらの効果は、迅速な医学の発展につながり、社会全体にも意義があると考えています。

また、上記の効果は、研究倫理指針の実効性の確保に資するものです。このことは、日本発の医学研究に対する国際的信頼性の確保につながり、国際的にも意義があると考えています。